K・SWJ通信 NO.12 2021.1.7 私論「合気道と呼吸法」   会長 勝田

我が絆勝稲和合塾道場はモリさん塾長のご尽力で響きの業と禊の行を二本の柱として、合気真髄に向けての充実した稽古が続けられています。そうしたある日、稽古中の呼吸法はいかにあるべきかが話題になりその回答を私が用意するよう仰せつかりました。

私は現在84才、19才の頃から呼吸法に取り組み今や65年の呼吸法人生です。果してどのような答案が書けるか呼吸法探求の跡を振り返りながら作成を試みたいと思います。

私が取り組んだ呼吸法

私の呼吸法人生で取り組んだ主な呼吸法は次の3つです。1.岡田式静坐法、2.坐禅、3.西野流呼吸法。1.2.は逆式腹式呼吸法であり3.は緩めの呼吸法(ここでは自在呼吸と名付けます)と言えるでしょう。

1. 岡田式静坐法は、高校を出た頃でした。人生の進路に悩み深い混迷に陥り、それを禅で解決しようと中学時代の恩師S先生を訪ねました。すると先生は「禅より岡田式静坐法の方が良いだろう」と仰って早速一緒に座って下さいました。その瞬間私はアッと驚きました。そこに、今まで体験したことのない澄明静謐な世界が出現したからです。それ以来私は呼吸法の効果と重要さを疑ったことは有りません。

2. 坐禅は、29才頃からのご縁です。当時精魂を傾けていた組合活動から身を引いたのですが、反作用というべきか激しい虚脱状態に陥りました。その救済を禅に求めたのです。私が門を叩いたのは鉄舟会でした。本会は剣・禅・書の達人であった幕末の英傑山岡鉄舟翁の遺風を本旨とする居士禅会で同じく剣・禅・書の達人であられた師家大森曹玄老師のご薫陶の許、精魂込めて参じ一時は禅僧になろうかとまで思いつめました。2週間の断食をやったり太陽と睨めっこしたり、若気の至りの数々をやったのもこの頃です。剣は直心影流法定、禅は臨済禅、書は儒墨道。三位一体の修業は青年にとって大きな心身の糧となりました。

3.西野流呼吸法は、身近に起こった難問にこれを解決するには気しかないなと入門しました。56歳の頃です。西野流呼吸法はバレーの先生であった西野こう三先生が合気道を志された頃、稽古中に相手が吹っ飛んだことから気を養成する呼吸法を創案されたものです。
合気会に再入門

西野流呼吸法で、無事難問の解決に成功すると共に、少し身体の力を抜くコツを身に付けたような気がして早速合気道に再入門しました。再入門というのには訳が有ります。前述のように20代の後半、組合活動に打ち込みピケ破りとも闘わねばなるまいと先ず柔道に挑戦しましたが非力の悲しさ、背負い投げで忽ち肩を壊して断念、合気道に転じました。しかしこれも痛いばかりで挫折してしまいました。挫折感を引き摺って生きた25年、それを払拭出来るかも知れないという期待と、また挫折したら俺の人生はないという悲壮な思いで本部道場を訪ねました。

ところが自分では力が抜けたと思っていたのに先輩から硬い硬いと言われ怪我ばかり。しかし合気道の化石奥村繁信師範、独眼流佐々木将人師範そして数々の先輩道友のお陰で耐えることが出来今日を迎えています。

ある朝のことでした。赤坂の事務所を出て6時半からの朝稽古に向かっていた時、天から開祖が降りて来られて、スッと私の身体に入られました。この心霊現象には言葉で表されない驚きと感動を得ました。

勝稲塾の先師稲越薫先生とのめぐり逢いも本部道場でのことです。

合気道の呼吸法

合気道の呼吸法には、諸手取り呼吸法(立ち技)と座技呼吸法があります。しかし呼吸法出身者としては、合気会の道場で呼吸法の指導が殆どなされないのが入門以来不思議でなりませんでした。初心者の頃、先述の奥村先生から「腕を上げる時に吸い、下ろす時に吐く」という基本を教わったきりです。言うまでもなくこれは基本中の基本ですので皆さんも是非身に付けて頂きたいと思います。

昨年は子年の年男でしたが、呼吸法に関連して2つの嬉しい体験を致しました。

1つは趣味の歌唱に関してです。永年呼吸法をやっているのに情けないことに歌うときに息が続かない。どうしたらよいかと息の吸い方を色々工夫しました。その結果「ア」音に続けて「オ」音の形で吸えば大量に息を吸えることを発見しました。その結果1音高い所まで高音が出るようになり、先生からも上手くなったな、どこで稽古したんだと褒められました。年を取れば音域が狭くなるのが普通なのに80代で音域が広くなるなんて奇跡的、呼吸法様々です。

もう一つは自在呼吸法の確立です。全身の力と気の淀みを抜くために踵から背中を通り胸を通って吐き下ろす。次は逆に前から後ろ廻りに回転させる。全身各部を呼気でマッサージする。そして最後は全身に息を吸い体の表面から水蒸気が蒸発するイメージで静かに息を吐く。これが私が創案した自在呼吸の鍛錬法です。これで力は抜いて気は抜かない体が出来ます。

絆道場の「響き技の第一、気結びにおける呼吸法」と「武技における呼吸法」

さて答案の締めくくりとして次のようにお勧めしたいと思います。

響きの時は、逆式腹式呼吸(前出1..)で丹田から声を出し(無声の時は気だけで

)武技の時は、自在呼吸法で行う。座技呼吸法は丹田の力で行うということになるでしょう。

 【逆式複式呼吸法とは

ここで、逆式腹式呼吸法の説明が足りないことに気づきました。大切なことですので補足します。

◆逆式腹式呼吸法

最初、お腹を凹ませながら息を吐き、吐き切った所で緩めると、ポッと息が腹腔の上部に入ります。それを下腹部に送り込むのです。

それにもコツがあります。

     腹腔に息が入ったらチョッと息を止め鼻の奥でクンと言いながらそこの過剰な息を漏らします。

     それからゆっくりと下腹部(丹田)に息を送り込むのです。この時に、ⅰ.まず、息を上から圧縮しながら、下腹部丹田に押し下げる、ⅱ.丹田に押し下げられ圧縮された息を、丹田内において、仙骨を前方に押し出すことによって、直角に前方への「気の力」が生まれ、下腹部が膨らみます。

※これが、合気道における武技のエネルギー源である「気の力」なのではないか、と考えられます。(藤谷コメント)

吐く息で膨らむから逆式です。次に吸うときは普通下腹部の力を抜くと下腹部が凹み上腹部にポッと息が入ると説明しています。確かにその通りですが私は反対です。下腹部の力を抜いた時にスキが出来るからです。武道的には好ましくありません。私は下腹部を凹ませず膨らませたまま凹んだ上腹部を膨らませて息を入れます。これは慣れないと難しいかもしれませんがこれをお勧めしたいです。

では今年も元気に稽古に励みましょう。

モリさんからのいくつかの質問の件

1)諸手取り呼吸法と座技呼吸法

これは本部道場朝稽古で使われていた(現在はどうなのかな)用語と技です。

毎時間必ずやっていました。呼吸法と名の付く技はこれ以外知りません。

諸手取り呼吸法は伸技1を諸手でやる感じです(裏表あり)。諸手取り呼吸法は諸手取りによる呼吸力鍛錬法、座技呼吸法は座技による呼吸力鍛錬法の略である

と理解しています。

2)呼吸法と呼吸技

呼吸法という用語を使う合気道の技は上記の他には知りません。また呼吸技という用語も知りません。

3)呼吸法と呼吸投げ

呼吸法という用語は合気道だけでなく一般に使われています。西野流呼吸法はその代表的ものですが、今は色んな方が自分流の呼吸法を開発し自分流の名称を付けています。「長寿千年呼吸法」(たつがみ いりや)、「加瀬式健康呼吸法」(加瀬玲子)、「あろは~呼吸法」(橋本雅子)etc

呼吸投げは合気道で使われている用語です。合気道の投げ技の代表的なものは入り身投げ、四方投げ、回転投げなどですが、合気道の技は無限と言われています。名前のついていない技が沢山ある訳です。それを皆呼吸投げという・・本部ではそう教わりました。つまり名前のついていない投げ技は何でも呼吸投げです。

 

令和21224日 勝田芳雄 拝

K・SWJ通信NO.13-畳半畳合氣道その1-2021.02.14塾長モリ