[NO.5]  正面打ち・入り身投げ

第1段階.ゼロ化技法

① 相手方正面打に振り被るや否や、自己に打ち克ち、さあ打って来いと、刃の下に身を委ねんばかりに、相手方の正中線に真っ直ぐに、自らの正中線をえいっと捌き進める。この「捌き」が肝心である。相手方の踏み込んでくる脚と同じ脚の「足」を60度くらい外側に傾け、「膝」を少し曲げて、外に捻りながらも、「土踏まず」から臍、そして頭頂までの「正中」を維持し、足先は少し浮かせ気味に「踵」から踏み込む。
 ※相手方に対して「恐れずに、逃げずに、真っ直ぐ向かって来る」と思わせることである。相手方は、畏れ慌て怒り、この野郎!と正面打ちの打ち込み動作を起こす。

 

② このとき、後ろ脚を、相手方の正中線に対して、「恐れずに、逃げずに、真っ直ぐ」、正中線同志を切り結ばせるつもりで、真っ直ぐに踏み込む。

 

③ 相手方の手刀が自分の面に届く直前に、先に踏み込んだ踵を中心点にして、正中線丹田の上に人中路を真っ直ぐに載せて、足(体)を外側に、120度転換する。

 

④ すると、思いきり切り下げた相手方の手刀が、いきなり目の前から相手が消えて、空を切り、相手の正中線が有った筈の、土踏まずと踵の間の10センチ程の狭間に、自らの勢いで、踏鞴を踏むように、つんのめる。

 

⑤ 相手方の背後に同じ方向を向いて寄り添う形になっているので、後側の手を筈にして、相手方の首の付け根に当てがい、前側の手で相手方の手刀の手首を自分の手刀で抑える。

 

⑥ これが「正面打ちに対する第2のゼロ化」である。自分の前方上から下方(頭頂)に向けて、打ち掛かってきた相手方の暴力は、①~⑤によって、「空を切り」「徒手空拳」となり、自分への影響力はゼロになった。
 ※「相手方から自分に対する暴力の物理的影響力がゼロになった状態を感じられる事」が、自分の武技が「天の理法を体に移し得た」事を覚知できた事なのである。
 ※この瞬間の感覚を楽しんで欲しい。だからこそ、次の動きへと焦らずに、この合氣道の技の重要性の80パーセントを占める「ゼロ化」の段階を、ストップモーションのように楽しんで欲しい。
 ※ゼロ化さえ出来れば、後は、如何なる崩しに繋げるか、そして如何なる制御に繋げるかは、自由自在である。「合氣道の技は無限じゃ!」という開祖のお言葉の意味はここにある。
 ※相手方からの物理的攻撃力・暴力に対して、物理的暴力によって反撃したいという「自己に打ち克ち」、暴力に拠らずして、物理的力に拠らずして、相手方の攻撃をゼロ化し得たのだから。
 ※これこそが、攻撃者たる相手方も、自分も、共に「分け御霊」である(「自他一体」)という「天地の心をもってわが心とし、万有愛護の大精神に立つ」という「合氣道の精神」の意味するところ、すなわち「合氣道の極意」なのである。
 ※「一教」が合氣道の最初の技と位置付けられるのは、相手方からの最もシンプルな攻撃に対して、最もシンプルな手の動きと体捌きにより、相手方の攻撃をゼロ化する技であり、崩しも、制御も最もシンプルな技であり、総体として、最もシンプルに合氣道の極意に触れることが出来るからである。

 

第2段階.崩し技法

⑦ 相手方の外側に寄り添っている前足を少し外側にずらし、後手の筈を外さないように首根っこに引っ掛けたまま、人中路の中を、魂を丹田に下げながら、膝を曲げて、丹田の重心を落とす。
 ※注意点は、筈の手で首根っこを物理的力で押したり、引っ張ったり、また前の手で相手方の手首を掴んで引っ張るなどの物理的力によって、相手方を崩そうとすることはしてはならない。

 

⑧ すると、相手方は、堪え切れなくなって、尻餅を付き、崩れてしまう。
 ※物理的力を用いないで、膝を使って「丹田の重心を下げる」という氣的力によって、相手方を崩すことが出来たことを確認し、自信を感じてほしい。
物理的力に拠らないで、相手方を簡単に崩すことが出来る天の理法=合氣道の武技の面白さと凄さを、合氣道を始めたばかりの初心者でも実感できる。

 

第3段階.導き技法

⑨ 崩しただけの相手方は、反撃するために、身体をこちらへ向けて、立ち上がろうとする。⑴その相手方の頭部を、前側の腕の付け根に引き込み、⑵次の瞬間、円盤投げの回転のように、前の腕と前の脚を内側に向けて渦巻き流を作るように、正中線を軸に回転させ、⑶反対の足を回転する前脚の足首に引き付けて、継ぎ足し、さらに前脚の回転を強めながら、⑷膝を曲げて、丹田の重心を下げ、渦巻きの中心下方への求心力を生み出し、⑸その求心力の流れの中に相手方を巻き込むと、相手方を仰向けに倒れてしまう。
 ※円盤投げとは、⑴~⑶は同じであるが、円盤投げは、膝を曲げた低い位置から回転しながら膝を伸ばし、下から上向きの渦巻き流を作って、より強い遠心力を生み出そうとするのに対して、ここでは、上から下向きの渦巻き流を作って求心力を生み出す所が違っている。
 ※またプロレスの「ウエスタンラリアート」とも似ているようだが、それは、腕を物理的力で振り回して、相手方の警部にダメージを与える技であり、全く異なるものである。

 

⑩ 仰向けに倒れた相手方の頭部から胸部に対して、残身の姿勢を取って、求心力の余韻を当てて、戦う心を無からしめる。