[NO.3] 正面打ち・一教・表

  第1段階.ゼロ化技法

① 相手方が打ち込んできた手刀の力に対して、逆半身で、相対する腕の手を筈(はず)にして、相手の上腕の肘裏の付け根に当て、つっかい棒のように真っ直ぐ伸ばす。
 ※決して腕に物理的力を入れて、相手方の腕を押そうとしない事、決して手指に物理的力を入れて、相手方の腕を握ろうとしない事が大切である。

 

② 丹田の上に人中路を真っ直ぐに載せて、その人中路の正中線に、つっかい棒とする腕を据えて、臍を相手方の体幹に真っ直ぐ向けて、踏み込み、切り結ぶ。
 ※この時、反対側の腕は、人中路を挟んで、つっかい棒として用いている腕を剣とイメージして、その柄の部分を支えるように用いる。

 

③ 自分の前方上から下方(頭頂)に向けて、打ち掛かってきた相手方の暴力は、①②によって、上方後方に向けての力に切替され、相手方は後ろ上方に仰け反る姿勢になり、自分への影響力はゼロになった。これが「正面打ちの第1のゼロ化」である。
 ※「相手方から自分に対する暴力の物理的影響力がゼロになった状態を感じられる事」が、自分の武技が「天の理法を体に移し得た」事を覚知できた事なのである。
 ※この瞬間の感覚を楽しんで欲しい。だからこそ、次の動きへと焦らずに、この合氣道の技の重要性の80パーセントを占める「ゼロ化」の段階を、ストップモーションのように楽しんで欲しい。
 ※ゼロ化さえ出来れば、後は、如何なる崩しに繋げるか、そして如何なる制御に繋げるかは、自由自在である。「合氣道の技は無限じゃ!」という開祖のお言葉の意味はここにある。
 ※相手方からの物理的攻撃力・暴力に対して、物理的暴力によって反撃したいという「自己に打ち克ち」、暴力に拠らずして、物理的力に拠らずして、相手方の攻撃をゼロ化し得たのだから。
 ※これこそが、攻撃者たる相手方も、自分も、共に「分け御霊」であるという「天地の心をもってわが心とし、万有愛護の大精神に立つ」という「合氣道の精神」の意味するところ、すなわち「合氣道の極意」なのである。
 ※「一教」が合氣道の最初の技と位置付けられるのは、相手方からの最もシンプルな攻撃に対して、最もシンプルな手の動きと体捌きにより、相手方の攻撃をゼロ化する技であり、崩しも、制御も最もシンプルな技であり、総体として、最もシンプルに合氣道の極意に触れることが出来るからである。

 

第2段階.崩し技法

④ ②を更に、切り結び、間を詰める。すると、相手方は更に後ろ上方に仰け反り、正面打ちで踏み込んで来た前足が爪先立ち、更には浮き上がり、反り返り、不安定な姿勢となってしまう。

 

⑤ つっかえ棒にした腕を伸ばし、もう片方の手を相手方の反り返った腕の掌の付け根辺りに添えて、

 

⑥ 次の瞬間、つっかい棒と同じ脚を、少し踏み込みながら、相手方の腕を真下に(自分の臍方向への感覚で)落とす。

 

⑦ と同時に、つっかい棒にしている自分の腕を肩から目一杯押し下げる。

 

⑧ とすると、相手方が崩れ落ち、両膝及び反対の手を床に付き、抑えられている方の腕は、肩が下、肘が中(なか)、手首が上の順番の角度となっている。
 ※この「肩下、肘中、手首上」の順番角度の状態が相手方を完全に崩した状態である。この状態が出来ていない人が経験者の中にも少なくない。もし「~」の状態を達成できず、「肩上、肘中、手首下」の状態になれば、相手方は容易に崩れ掛けの状態から切り返して態勢を逆転することが出来る。稽古においては、受けの人-相手方は、意識的に切り返そうと試みることが、受けにとっても取りにとっても大切である。

 ※この状態においても、物理的力ではなくて、「天の理法を体に移した武技」により、相手方を崩すことが出来ることを実感することが出来る。
 ※一番下に押し下げている自分の腕の押し下げている程度を、意識的に、少し緩めてやる。すると相手方は、ここぞとばかり、体勢の立て直しを図ろうとする。それを見ながら余裕をもって、つっかい棒を押し下げてやる。すると相手方はあっけなく崩れる。この緩める→押し下げるを何回も行うと、物理的力に拠らないで、相手方を簡単に崩すことが出来る天の理法=合氣道の武技の面白さと凄さを、合氣道を始めたばかりの初心者でも実感できる。"

 

第3段階.導き段階

⑨ 相手方を完全に崩した体勢のまま、押し下げるのに踏み出した方の脚を、相手方の首の付け根方向へ進め、さらに反対の脚を90度ハの字に開いた方向へ一歩進めると、相手方の体は、腹這い状態に伸びてしまう。

 

⑩ うつ伏せに伸びた相手方に寄り添うように膝を付き、つっかい棒にした腕の筈の手で、相手方の伸びた腕の肘の上の付け根を、反対側の手で手首を抑え、腰は、跪座に乗せ、そして両膝を開いて座る。
 ※「抑え」は、物理的力ではなく、腕をつっかい棒にして、丹田と人中路の呼吸力(人中路から丹田の中で、必要な分だけ魂を下げて、丹田の氣の重心力を重くして)で抑えることが肝要である。

 

⑪ ⑩において大切なポイントは、相手方の肋骨の側面の脇から10~15センチくらいの部分を自分の膝頭の斜め外部分を押し当て攻めることと、相手方の腕を脇の角度を120度くらいに開くことである。
 ※⑩⑪も「天の理法を体に移した武技」である。腕の角度が90度くらいだと相手方が肩を持ち上げて切り返す反抗が可能であるが、角度を120度くらいに開かせ、さらに「呼吸力」で抑えると、達人になると人差し指一本で抑える事すら出来てしまう。